雛人形の結びつき

「ちーっともかまわないもん」アイビーはいいました。
そうでないと、泣いてしまうからです。
強がりをいうアイビーがなんともいじらしい。
その後、「あたし、おばあちゃんのとこへいくんだもん」といって、汽車に乗って、一人で出かける。
彼女がおばあちゃんがいると思いついたの町の名は「アップルトン」という地名だった。 けれど、本当にその名の駅はあって、アイビーはそこで降りたのだった。
アイビーは広場で行なわれていたクリスマス市に行き、店を見て回った。 焼き栗やお茶を買ったり、風船を買ったり、ひとりぼっちで、行く当てもないことも忘れて楽しんだ。
やがて、市もおしまいになり、明かりが消えていく。 アイビーは泣きそうになりながらも、まぼろしのおばあちゃんを探しに歩く。

雪の降る中をたった一人であてどもなく歩くアイビー。 この夜は運よく、あたたかいパン屋さんの粉の袋の上で眠ることができた。
雪がやんで、月の光の中でまた歩きはじめたアイビーが見たもの、それはおもちゃ屋のあの人形、ホリーだった。 二人は「あたしのクリスマス人形!」
「わたしのクリスマスの女の子!」と思う。
必然の出会いだ。

しかし、二人のあいだにはウインドーのガラスがあり、アイビーには人形を買えるようなお金がない。 そのとき、ホリーもアイビーも、そろってねがいごとをしたのです。
「おねがいですから……」
「おねがいですから……」
さて、二人の願いはかなっただろうか? そして、女の子が欲しいとクリスマス・イブに願ったジョーンズさんの願いはかなっただろうか?
その答えは物語を読んでください。

これは、クリスマスに必死な願いをした、三人(人形のホリーも女の子一人と数えて)の物語だ。
大人になって、願いごとなんかかなうはずはないと信じてしまう前に、この絵本を読んで欲しいと思う。 G氏は心からの願いはかなうと子どもたちに語りかけた。
人生を肯定するこのメッセージを受け取り、人間観の土台にもつことができた子どもたちは、心に消えないキャンドルの火を点しつづけることができるだろう。 紙人形といってもいろいろあるのだろうけれど、私たちにおなじみのものは、一人の人形型を切りぬいて、洋服を着せ替えたりして遊ぶタイプだ。
ほんものの人形とはちがうが、紙という手軽さや、印刷がきれいなのでつい欲しくなって買ってもらうと、うれしかった。 さて、この物語の紙人形は紙を折りたたんでいちばん上にだけ女の子の姿を描いて、切り抜いたものだ。

広げてみると、何枚かの左右対称の人型ができる、そうしてできた紙人形だ。 私はこのタイプの紙人形で遊んだことはない。
アメリカの『ミリー・モリー・マンデーのおはなし』は、小さな女の子の出てくる楽しい話だ。 このミリー・モリー・マンデーを主人公にしたお話はたくさんあって、邦訳されていないそうしたお話の中に、折って切るタイプの紙人形の作り方が図入りで、詳しくのっている。
私はこうしたものを作ったことがなかったので、それを見ながら作ってみた。 さてどんな紙人形ができるのかと思いながら。
はさみで切ってみると、本当に手をつないだ女の子が、五人できた。 子どもに作ってあげたら喜ぶだろう。
さて、ここでとりあげた『紙人形のぼうけん』も折って切るタイプの紙人形で、この紙人形を作ったのは、サリーという女の子のおばあちゃん。 おばあちゃんはいちばん手前の、女の子の姿を描いた紙人形に、アルファという名前をつけた。
「きっとこの子は、おてんばね」と、描かれた女の子を見てサリーがいうが、そのとおりの生き生きとした性格と勇敢さをもった子になる。 あとにつづく四人は顔も名前もまだ、ない。

それなのに、もう、ここで一大事。 おばあちゃんとサリーがレモネードを取りにいっている間に、紙人形は風もないのに窓から家の外に出てしまう。
サリーはがっかりしていう。 「みんなぼうけんの旅に出ていってしまったのよ。
でも、四人は顔も名前もなくて、どうやって、世界を旅していくなんてできる。 おばあちゃん、ターシャの子たちのこと、忘れるなんてできない。むりよ、そんなの」
サリーの心配にもかかわらず、紙人形たちは連れ立って、冒険に出発した。 おばあちゃんが名前をつけたアルファは冒険好きで、勇敢な女の子だ。
スイレンの池に落ちてもへこたれない。 そのうちに、カワセミが魚と思ってくちばしにくわえてくれたおかげで助かる。
運のいい子なのだ。 にこにこ、わくわくしながら、「わあ、おもしろい」と、どんな冒険にも向かっていくアルファは元気がよくてすがすがしい。
この子がいちばんはじめの子なので、紙人形たちはぐんぐんと外に向かって、未知の場所に向かって進んでいく。 だから、冒険につぐ冒険にあい、読み手はそのたびに、ひやっとしたり、ほっとしたり。

ぐんぐん物語にひきこまれていくのだ。 やがて、一人、また一人とアルファ以外の紙人形たちの顔や洋服が別人によって描かれていく。
二番目の紙人形は絵を描くのが好きな少女に顔や服を描かれる。 明るいブルーの目、赤いほっぺとくちびるで、にっこりほほえんでいる顔。
キャサベルと名前がつけられるけれど、この名はじつはキャサペル自身がつけた名前。 いろんなお話を知っている子になる。
それも不思議だけれど、物語では、人形たちは無言で、「考え」を人間に伝えていくことができることになっている。 各自の顔の表情で個性が決まり、それぞれが自分の好みや意見をいうのだ。
失恋した青年は涙がひとつぶあるさびしそうな顔を三番目の紙人形に描いた。 名前はエロディー。
するとこの子は、泣いたりすることが多くて、悲しみを知っている性格になる。 四番目の人形は赤い縁のめがねをかけた賢そうな顔に男の子に描かれて、イカシアという名前を名のる。
五番目の人形は、口をあけて笑っているように描かれてしまい、そのせいで、よく笑う楽しい女の子になって、物語に登場する。 冒険を重ねるたびに一人ずつ五人の姉妹が誕生していくというのはなんて巧みなストーリー展開だろう。
こんなふうに性格のちがう姉妹がなんだかんだといい合ったり、まだ顔の描かれていない子の感じたことはほかの、顔や服が描かれている姉妹が代弁したりする。 その様子が面白い。

作者は五人姉妹ということに、どんな意味をもたせたのだろうか。 姉妹というものがこんなに個性豊かであるということは、現実の兄弟姉妹たちを見てもうなずけるし、一人の人間の多面性といわれれば、そんな気もする。
それにしても、よくできた設定だと思う。 さて、その紙人形たちだが、魔術師のブタに燃やされそうになったり、市のビルの上のほうまで舞い上がり、急降下する。
くずかごに捨てられたときは、これで万事休すかとひやひやした。 そして、いちばんの危機はドラム缶で燃やされることになってしまう事態になること。
ただしその寸前で助かるのだ。 こんなふうに危機一髪をなんとかくぐりぬける五人の紙人形たち。
読んでいるうちに、がんばれと応援している自分に気がついた。 だって、とっても痛快な人形たちの物語なのだ。
五人の冒険の行き先をぐいぐいひっぱっているのはあの勇敢な女の子アルファ。 彼女のプラス思考に四人は助けられる。
「あたしたち、これからどこへいくの?」と姉妹たちが訊くときの答えがとてもアルファらしい。 彼女はいうのだ。


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